2024.2.16

<第1話>物流の2024年問題とは?荷主企業への影響をやさしく解説

2024年問題と日本の物流の未来

 

2024年問題によって「輸送リソースが不足する」「荷物が運べなくなる」と懸念されています。
荷主企業にとってどのような影響が出るのか、乗り越えるための課題や解決策は何か、やさしく解説します。

 

目次

  1. 1. 2024年問題とは

  2. 2. 2024年問題が運送事業者に与える影響

  3. 3. 2024年問題が荷主企業に与える影響

  4. 4. 2024年問題への対応として取組むべき課題と解決策

  5. 5. まとめ

 

コラムのポイント

  • ・ドライバー業務がどう変わるか
  • ・「運べない」より先に起こる問題とは
  • ・取り組むべき課題3つと荷主企業の取組み(調査結果より抜粋)

 

2024年問題とは

2024年問題とは、ドライバーの時間外労働の上限が規制されることで起きる問題です。
この規制は2019年4月から順次施行されている通称「働き方改革関連法」によるもので、多くの事業・業務には既に適用されています。しかし他の産業に比べて労働時間が長く解決に時間をかかるドライバー業務などには5年間の猶予期間が設けられていましたが、2024年4月1日からいよいよ適用されます。

ドライバー業務がどう変わるのか

では2024年4月1日以降、ドライバー業務はどう変化するでしょうか。
変化に関わる3つの規制・改正を紹介します。


時間外労働の上限規制

全日本トラック協会の『第2回持続可能な物流の実現に向けた検討会「トラック運送業界の2024年問題について」』のレポートによると、トラックドライバーの30%、長距離ドライバーの50%が時間外労働を減らさなければなりません。影響が大きいはずなのですが、一部ではまだ何も対応していないという声も聞こえてきます。それはこんな理由も考えられます。
ドライバーの業務、正確には「自動車運転の業務」に対し「年960時間」が上限で規制が適用されます。この「年」がくせものです。施行されてもしばらくは960時間にならないため現状と同じ業務の状況でも問題になりません。しかし年度末に近づくにつれて「時間外労働が可能な時間が残り少なくなった」ドライバーが増えて、急に運送依頼を断られる、もしくはリードタイムなど輸送条件の緩和を求められることが増えると予想されます。
詳しくは、厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」をご覧ください。
当コラム第3章「2024年問題が荷主企業に与える影響」はこちら


拘束時間と休息期間の基準値変更

もう少し詳しく見るとドライバーの拘束時間の削減と休息期間が拡大されました。
ドライバー職の労働環境が改善できるものの、輸送リソースの不足など懸念の声も聞こえてきます。

改善基準告示の改正による自動車運転者の拘束時間等の基準値

出展 厚生労働省「 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」をもとに当社にて制作


時間外労働に関する割増賃金率の引き上げ

中小企業において、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が昨年4月から大企業と同じ50%に引き上げられました。

自動車運転業務の残業割増賃金率の変化

出展 厚生労働省「 働き方改革関連法に関するハンドブック」をもとに当社にて制作

ドライバーにとっては嬉しい変化ですが、企業にとっては利益の減少につながる重要な問題です。



 

2024年問題が運送事業者に与える影響

先の3点(時間外労働、拘束時間と休息期間、割増賃金率)は、ドライバーの労働環境を改善するという良い面を持つものの、懸念事項もあります。運送事業者やドライバーに与える影響について解説します。

運送事業者の売上、利益が減少

時間外労働の上限規制や休息期間の基準値変更によって、ドライバーの労働時間が減少します。
労働時間が減少すればこなせる業務量、つまり「運べる距離・量」が減少します。運賃は荷物を運ぶ距離と量によって決まるため、運べる距離・量が減少するということは「運送事業者の売上が減少する」ということです。
さらに割増賃金率の引き上げによって支払が増加し、利益が減少してしまいます。
運送事業者にとって2024年問題は、まさに死活問題なのです。


ドライバーの収入が減少

ドライバーの労働時間の減少は労働環境の改善と同時に、トラックドライバーの収入減にもつながります。
ドライバーの収入は「歩合制」なことも多く、その場合「運べる距離・量の減少」は歩合を減少させる要因となります。
日本のトラックドライバーの収入が他産業に比べて低水準であることは2024年問題より前から問題視されており、ドライバー職の人気が低い要因の1つとも言われています。従来よりもさらに収入が減少することで、これまで以上に成り手が少なくなる、もしくはドライバーの離職率が高まってしまう可能性があります。



 

2024年問題が荷主企業に与える影響

2024年問題では「運べなくなる危機」について語られることが多いのですが「運べなくなる」のはもう少し先で、その前に「現在のQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が維持できなくなる」でしょう。
2024年問題によって荷主企業はどのような影響を受けるのか、主に4つを解説します。

1.納品リードタイムの延長

長距離輸送の場合、現在のリードタイムでは運べない届け先が出てきます。
届け先(顧客)にとって「納品リードタイムが延びる」ことは「サービス品質の低下」と感じられるでしょう。特に製造業は「ジャストインタイム」での納品を希望する企業が多く、「いつ届くか」を重要視しています。その他の業種でも「当日入荷・当日出荷」ができなくなる可能性があり、リードタイム問題は単に「入荷時間が遅れるだけ」では済まない大きな問題です。


2.直前の運送依頼が困難に

「直前の運送依頼」が出来なくなるかもしれません。
そのためドライバー不足により、より早く運送依頼を出さなければ「対応可能なドライバーがいない」として運送依頼を断られる、もしくはリードタイムなど輸送条件の緩和を求められることが増えると予想されます。


3.輸送コストの増大

現在のコストでは運べない届け先が出てくると予想されます。
一番の理由は「1運行にかかるコストが増大する」ことです。今後は時間外労働の制限等によって1日に運べる距離・量が減少し、届け先へ到着するまでにより多くの時間がかかるようになります。到着するまでの時間(ドライバーの拘束時間)が増えるため、より多くの人件費がかかってしまうのです。また該当ドライバーに60時間以上の時間外労働が発生していた場合、割増賃金率の引き上げによって残業代を今までより多く支払うこととなります。
運送事業者はかかったコストを回収するために今までより高い金額を提示せざるを得ず、荷主企業のコスト増大につながってしまうのです。


4.時間指定や付帯業務が困難に

ドライバーの拘束時間に影響をおよぼす時間指定や付帯業務は、受けてもらえなくなる恐れがあります。
労働時間が短くなっても可能な限り同じ運送依頼をこなそうとすると、必然的に「ドライバーしか行えない業務」を優先することになります。「走る距離」をなるべく減らさないよう「運行」を優先し、運行以外の時間を削減するしかありません。荷待ち時間の削減はもちろん、付帯業務もなるべく素早く行うよう工夫が必要です。

長距離貸切輸送の運行イメージ


 

2024年問題への対応として取組むべき課題と解決策

施行以降も現在のQCDを維持・向上するために乗り越えるべき3つの壁(課題)について解説します。
2023年6月に実施した当社の調査結果から、荷主企業が実施または検討している解決策も合わせて紹介します。
課題と解決策については、今後公開予定の第2話で詳しく解説します。

距離の壁:長距離納品の継続

ドライバー1名が1日に運べる距離・量が減少しても、従来通りのサービス品質で長距離納品できるよう工夫が必要です。
例えばトラックから鉄道や船舶での輸送に切り替える「モーダルシフト」や、トラックターミナルを活用した「中継輸送」を行えば、従来のリードタイムを維持できます。
中継輸送は運送事業者が検討するものだと思われるかもしれませんが、一部の荷主企業は取引先の運送事業者を巻き込んで自らが率先して検討しています。

荷主企業における「距離の壁」の解決策(調査結果より抜粋)

  • ・モーダルシフトの検討
  • ・物流の複線化、フェリー活用
  • ・輸送モードの最適化
  • ・中継拠点の新設、再配置
  • ・海外輸入コンテナを得意先へ直納

 

コスト・賃金の壁:積載率の向上

ドライバー不足の解消策として今まで以上に積載率を向上させなければいけません。
「納品リードタイムを守るため、積載率が低くても貸切便で輸送している」という話も聞きますが、今後は共同配送や積み合わせ貸切便の活用によって可能な限り積載率を上げ、便数を減らすことでそれを他の輸送にまわせます。
輸送の量を維持するだけでなく値上がりが懸念される輸送コストも抑制できます。

積載率の向上は、ドライバーの収入向上にもつながります。
先の通り、ドライバーの多くは給与が歩合制です。積載率を向上させればより多くの荷物を運ぶことになるため、ドライバーの収入を増やせます。収入を増加・安定させられれば、ドライバーの離職を防ぐことも可能です。

荷主企業における「積載率の壁」の解決策(調査結果より抜粋)

  • ・他社やグループ企業との共同配送
  • ・配送計画の最適化
  • ・小口出荷の削減(配送の集約)
  • ・配送回数、出荷頻度の見直し
  • ・物流部門が主導し、トラックへの積載効率化


時間の壁:拘束時間の削減

時間外労働と拘束時間を遵守するには、ドライバーの労働時間を減らす取組みが不可欠です。
しかも運行時間は可能な限り従来通り確保し、他業務にかかる時間を減らさなければいけません。
例えばトラックバースの「予約受付システム」を活用した荷待ち時間の削減やパレット輸送による積卸作業の効率化によって、荷主企業の拠点に滞在する時間を短縮します。

時間にまつわる課題としては、「納品リードタイムの延長」もあります。
こちらは「物流拠点を分散」して輸送距離を短くすることで対応できます。ただし拠点を増やせばコストが増加しますし、在庫過多になるリスクがあります。最適な拠点・在庫配置になるようしっかりとシミュレーションを行いましょう。

荷主企業における「物流拠点の分散化」(調査結果より抜粋)

  • ・物流拠点のシミュレーションを支援企業に依頼中
  • ・拠点の相互活用
  • ・ストックポイントの設置
  • ・拠点最適化(新設、再配置)



まとめ

2024年問題とは、ドライバーの時間外労働の上限が規制されることで起きる問題です。
ドライバー業務に対して時間外労働の上限規制、拘束時間および休息時間の基準値改正、残業割増賃金率の引き上げ等が適用されます。
ドライバーの労働環境が改善される良い影響がある反面、物流のQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が維持・向上できなくなる可能性があります。
今後は荷主企業と運送事業者が協力して長距離納品の継続、積載率の向上、拘束時間の削減といった課題を解決し、日本の物流を持続可能なものにしていく取組みが必要となります。

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