「これ、自動化できない?」
現場からそんな声が上がるたび、IT担当者の頭の中では、システム構造や制約、テストの段取りが一瞬でよぎります。しかし、それは現場の人にはわかりません。
「ITならボタンひとつで何とかなる」というイメージのまま、期待だけが膨らんでいく…現場によくある光景ですよね。
「簡単にできるでしょ?」が一番むずかしい
「この帳票を一瞬で出せるようにして」「ここもう少し簡単に操作できない?」。
言われること自体は悪気もなく、むしろ業務を良くしようという前向きなリクエストです。
でもそのちょっとが、システム全体の設定や連携を見直す必要があることも多く。説明しても「そんなに大変なの?」と首をかしげられます。
小さなお願いの積み重ねが、いつしか大きな負担になっていくのがIT部門の現実です。
自動化の陰にある、地味で確かな努力
クラウドやAI、RPAなど、便利な仕組みが身近になったことで、「だったらウチの業務も自動化してほしい」という声が増えました。
けれど、実際にはシステム間の整合性やセキュリティ、データ品質の確認など、導入までは見えない裏側の仕事が多く発生します。
表面だけ見れば業務はシンプルでも、それを確立するまでは、裏で地味な作業が続いています。
IT部門の努力は、いつも見えないところで支えています。
すれ違いを減らす3つの工夫
では、どうすれば「ITなら何でもできる」という誤解を減らせるのでしょうか。 ポイントは、伝え方と関わり方です。
- ①技術ではなく「影響」で説明する
「この機能を変えると他部署のデータに影響がある」
「その設定を外すと顧客情報の漏洩の恐れがある」など、
専門用語ではなく影響範囲を現場目線で伝えることで、理解が深まります。 - ②成果を見せて積み上げる
一度にすべてを変えようとせず、「まずここだけ試してみましょう」と段階を区切ることも大切です。小さな改善を積み重ねれば、IT部門への信頼が確実に増していきます。 - ③「できない」ではなく「こうすればできる」で返す
代替策やリスク回避の方法を添えて伝えることで、対立ではなく協力の会話に変わります。断るのではなく一緒に考える姿勢こそが強いチームワークを生みます。
「NO」と言わないIT部門の宿命
IT部門は、基本的に「できません」とは言いたくありません。
現場を止めたくない、困っている人を助けたい。その気持ちが根底にあります。
「業務が少しでも楽になるように」「ミスを減らせるなら」そんな前向きな声には、できる限り応えてあげたい。だからこそ、日々のトラブル対応への比重が大きくなり、いつの間にか社内の何でも屋になってしまうのです。
本当は全社を見据えた戦略的なIT活用を積極的に取り組みたい。
けれど、「ちょっとだけ改善したい」という声に応えるうちに、今日もまた時間が過ぎていく… それがIT部門の優しさであり、宿命でもあります。
ITは魔法ではありません。
でも、現場を動かす仕組みをつくっているのは、いつだってIT部門です。
「できない」をどう前に進めるか。そこに、IT部門の本当の価値があるのです。




