前回は、客観的で正確な作業時間の収集方法・手段を検討しました。今回は、文具卸売業A社様の人時生産性向上の取組みを、6ステップで分かり易く紹介します。
取組みの概要
本取組みは、約1ヵ月間を活動期間とし、以下を実行しました。
- ・STEP1. FLabor(フレイバー)によるデータの収集
- ・STEP2. 現行の人時生産性の分析と評価
- ・STEP3. 目標人時生産値の設定
- ・STEP4. 作業員の再配置
- ・STEP5. 効果の検証
- ・STEP6. 更なる改善活動
STEP1:FLaborによるデータの収集
まずは改善対象を選択するため、FLaborで入荷、格納、ピッキングおよび検品梱包の、作業時間(作業の開始時刻と終了時刻)を収集しました。
当コラムでは、この中で全作業時間に占める割合が最も大きかったピッキング作業を取上げます。
まずは、FLaborでのデータ収集を開始するにあたり、データの正確性を確認するために、導入後1週間をデータ検証期間として作業日報と比較するととも、勤怠管理における勤務時間と比較しました。

この結果、FLaborで取得した作業時間と現行の勤務時間との差は3%未満であり、データの正確性は保証されました。 この物流センターに対してFLaborは、作業時間を正確に収集でき、かつ作業員によるシステム運用も実用的であるということが検証できました。
この後、データ収集を続行し必要な情報を揃えました。
STEP2:現行の人時生産性の分析と評価

人時生産性は、FLaborで取得した作業時間と物量のデータから分析します。物量データは倉庫管理システム「SLIMS」から取得しました。グラフは、現状の人時生産性の分析結果を表しています。
分析結果から、ピッキング作業には人時生産性(棒グラフ)にばらつきがあることが分かりました。
また、人時生産性は、物量が多い日は高く、少ない日は低いことから、物量(折れ線グラフ)の増減に関連することもわかりました。
これは、作業員数が過剰な日がある証拠であり、人時生産性の平準化と改善の余地があることを示しています。
STEP3:目標人時生産値の設定
目標人時生産値は、以下の手順で設定します。
- 1. データ収集期間における日別の人時生産性の平均値を求める。
- 2. 平均値を上回る人時生産性のデータを対象に平均値を求める。
- 3. 求められた平均値を目標人時生産値とする。

5日から29日までの日別の人時生産性の平均値は84行/人時であり、この平均値を上回る人時生産性のデータを対象に、さらに平均値を求めると、97行/人時となります。
この97行/人時を作業員数立案時の目標人時生産値としました。
STEP4:作業員数の再配置
日別作業員数は、以下の手順で立案し配置します。
- 1. 作業員数立案シートを作成して、必要とする作業員数を立案する。
- 2. STEP3で算出された目標人時生産値を元に、時間帯別作業の目標人数(出荷行数(残数)÷ 目標人時生産値)を設定する。
- 3. 設定した時間帯別作業の目標人数と現在物流現場に配置されている実績人数を比較する。
- 4. 実績人数の方が多い場合は、作業員を別工程に配置する。

13時の時点での出荷行数4,498行を目標人時生産値97行/人時で割ると、所要時間は46時間。この所要時間を出荷締切時間18時までの残り5時間で割ると9.3、つまり目標人数は9.3人となります。
実績人数11人では1.7人過剰となるため、過剰人員を別工程に配置しました。
STEP5:効果の検証
人時生産性の平準化の効果は、ばらつきを示す分散や、改善前の人時生産性と改善後の人時生産性を比較して検証します。

ピッキング作業における改善前の分散は139.5でしたが、改善後の分散は101.6となりました。分散の値は、小さいほど平均値に近い複数のデータの集まりであり、分散の値が大きければ平均値から遠い複数のデータの集まりです。従って、人時生産性のばらつきが抑えられたと言えます。
人時生産性については、改善前の平均が80行/時なのに対し、改善後は96行/時であり、20%の生産性向上が得られました。
STEP6:更なる改善活動
STEP5までにより、人時生産性の平準化および向上の効果が得られましたが、現在、更に以下の3つの改善活動を推進しています。
- 1. 現場への人時生産性の開示
作業進捗状況や目標人時生産値を現場へ開示し、作業員の改善意識を高め、物量に関わりなく、目標人時生産値を達成することが期待できる。 - 2. 適材適所を意識した配置
目標値を下回る作業員は、得意とする作業に配置変えする。 - 3. 勉強会の実施
人時生産性の高い作業員を模範として業務の勘所や要所を共有する。
次回は、この取組み事例の効果を深堀します。